絵本「ぼくを探しに」 単純な絵と示唆に富んだ内容で大人も楽しめる

「ぼくを探しに」は、アメリカ人の作家“シルヴァスタイン”が書いた絵本。

主人公は、円の一部分が欠けたような形をした”ぼく”。

何かが足りない
それでぼくは楽しくない

(引用:ぼくを探しに)

そう考え、”ぼく”は足りない部分を探す旅へと出る。

円の欠けた部分にぴったりとハマるかけらを探す旅へ。

「ぼくを探しに」の魅力

単純な絵とストーリーだが、様々な解釈ができて考えさせられる内容

「ぼくを探しに」は、幼稚園児が描いたかのような単純な絵で構成されている。

  • 目は点で、パックマンみたいな形の”僕”
  • 一本の線で表現された道

この本に出てくる絵は、どれも1分もあれば描けそうな絵ばかりだ。

ストーリー自体も非常にわかりやすく、小さなお子さんでも楽しめる。

だが、絵やストーリーの単純さに反して、内容は読む人によって受け取り方が変わる”懐の深さ”みたいなものを持っている。

たとえ一度読んだことがあったとしても、読む時期を変えれば違ったものの見方や解釈が出てくるかもしれない。

そんな可能性を持った絵本が、この「ぼくを探しに」だ。

だからこそ、大人でも楽しめる絵本になっている。

印象に残っている言葉・エピソード

「ぼくはきみのかけらじゃないからね」

主人公の”ぼく”がピッタリとハマりそうなかけらを見つけたとき、そのかけらから言われた一言。

ぼくはきみのかけらじゃないからね
誰のかけらでもないからね

(引用:ぼくを探しに)

この言葉を見て、ドキッとした人は多いのでは?

特に、大切なパートナー(友人や恋人、夫・妻)がいる人はなおさら。

私たちは、パートナーができると、それがあたかも自分のものであるかのような勘違いをしてしまいがち。

そして、自分の思い通りに動かしていいかのような錯覚に陥ってしまうことはないだろうか。

  • 「友達だから」
  • 「恋人だから」
  • 「夫婦なんだから」

そういった”枕ことば”を使って、自分のわがままを押し付けていないだろうか。

その期待に応えてくれるパートナーの存在を当たり前だと思い違いをしてはいないだろうか。

”自分の一部分であると誤解せずに、一個人として相手を認めることが大切”

そういったことを私たちに示しているシーンに感じた。

大切なものをなくしたり、こわしたりしないように

今度の印象的なシーンは、初めてピッタリと合うかけらに巡り合ったときの出来事。

”ぼく”は、そのピッタリと合うかけらをはめて歩きだす。

しかし、しっかりとはめていなかったから途中で落としてしまう。

「今度は、落とさないように」と強めにくわえるが、力が強すぎてしまったために、かけらが粉々に砕けてしまう。

”しっかりと持っていないと、手からすり抜けて落ちてしまう。「なくさないように」と強く握りしめても壊れてしまう。”

そんなことを私たちに語りかけるこのシーン。

特に、大切な人との人間関係であれば、なおさら上記のことを意識しておかなければならない気がする。

相手をいたわることもせず、ただ放っておけば、大切な人は少しずつ離れていってしまう。

かといって、過干渉であったり束縛が強かったりすると、健全な関係を築くことはできず、いずれは壊れてしまう。

放りっぱなしでもなく、束縛するのでもない、適度なバランスの関係を築いていくことが大切だと、改めて気付かせてくれるシーン。

足りないものを探す旅の中で出会ったもの、満たされた後で失ったもの

足りないかけらを探す旅の途中で、”ぼく”は様々な経験をする。

何気ない日常の中での楽しみを味わったり。
ゆっくりとした時間を過ごしたり。
ときには安らぎや癒やしを見つけたり。

そういった経験は、足りないからこそ出会えたものばかりだった。

旅を始めた動機は、「何かが足りない。それで楽しくない。」だった。

しかし、足りなかったかけらを見つけ、満たされたはずの”ぼく”は、足りていなかったときに出会った楽しみを味わうことができなくなっていたのだった。

 

「○○さえあれば、幸せになれる」といった思い込みを、私たちは普段していないだろうか。

  • お金さえあれば
  • 恋人さえいれば
  • 仕事が楽しければ

そして、そういった幻想を追い求めるうちに、私たちはなにか大切なものを知らないうちに失っていないだろうか。

  • 友人や家族とのひととき
  • 自分の楽しみ
  • 同僚との人間関係

失って気づく前に、いま一度、日頃の行いを振り返ってみたい。

自分なりの解釈を探してみるのも楽しいですよ

この「ぼくを探しに」は、本当に色々な解釈ができる絵本。

読む人によって違うだろうし、読む時期やそのときの気持ちが違えば、感じることも当然変わってくる。

単純な絵だけれども、ところどころではページをめくる手を止めて、そのときに出てきた解釈や感想・受け取り方をじっくりと味わってみる。

そんな楽しみ方ができるのも、この本の魅力のひとつです。

一度、自分なりの解釈を見つける旅に出てみませんか?